現象学について調べたことや考えたことを整理する(2)超越論的還元と本質観取

超越論的還元

前回の記事には大事なキーワードが抜けていた。それは超越論的還元だ。超越論的還元とは、この世界の客観的実在を一旦脇に置いておいて(エポケー)、意識の側を基点にして世界の実在を考えるという視点や考え方の方向転換を意味する。あくまでもスタートは主観的な意識に置く。”還元”については竹田青嗣の解説が分かり易い。

つまり、普通ならば「リンゴがある(原因)」から「赤くて丸くてつやつやしたリンゴの像が見える(結果)」と考えるところを、「赤くて丸くてつやつしているリンゴの像が見えている(原因)」から「そこにリンゴがあるという確信が成立する(結果)」という仕方で考えるわけです。一般的な原因と結果の順序を入れ替えるわけです。 現象学研究会 「本質観取」とは何か より

 

本質直観と本質観取の使い分け

※この用語の使い分けはあくまでも推察であり、単に言い換え表現なだけで実質的には同じ意味かもしれない。

 

本質直観

具体的な事物だけでなく抽象的な概念も含め、客観的な真理を前提としない、一存在の意識に直観された本質。特に具体的な事物における本質直観を個的直観と呼ぶ。

 

本質観取

特に抽象的な概念における本質直観において、複数の存在の本質直観から共通了解を取り出し、それを普遍的な概念へと練り上げていくこと。また、その共通了解が成立する条件を問うこと。

 

まとめてみたが、逆に抽象度が高くなって意味が分かりづらくなってしまった感がある。山竹伸二の解説が端的にまとめられている。

本質観取とは「自由」「不安」(中略)等々の概念を対象とし、誰もが共通して了解し得る意味(本質)を取り出す作業であり、本質直観とも呼ばれるのは、それが意識において直観された意味を出発点にして、他者と共通了解し得る意味に練り上げていく作業であるからだ。

山竹伸二「現象学的心理学の可能性」 『アジア太平洋レビュー』 第7号2010年度 p.36

 

つまり、私の意識において直観された事物や概念(本質直観)を、他者の本質直観とすり合わせて共通した本質を取り出すこと(本質観取)である。

 

また、本質観取に至るまでには、他者の実在についても自分との類似性や共通性から確信が成り立っていなければならない。余談だが、この他者の実在における確信成立の成否という問題は、今日的な意味からいえば、例えばアンドロイドやAI(人工知能)は人間と見なせるか?といった問いにつながり、興味深い。今後技術が更に進歩し、人間と見紛うような”何か”を”彼ら”と呼ぶような時代が来たとき、現象学的な考え方が活用できそうな気がする。

 


現象学の主要な用語の定義や意味について考えてみたが、そういえば研究者になった知人が学生の時、「原典を読むことが大事なんだ。」と言っていたのを思い出した。もう少し本を読みたいと思う今日この頃。

 

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初投稿2017年3月16日 最終更新2018年6月17日